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まるで甘いソフトクリームでも食べているかのように美味しそうに自分の右手を舐める柊凛。 俺はその光景をみて、しばらく固まるほかなかった。己の記憶を疑い、少し前のやり取りを思い出す。 もしかしてこいつは本当にソフトクリームを食べていて、それが零れて今の状況になったんだっけ?それとも、ジュースでも零したんだっけ…。 いやいや、落ち着け。すっと自分の額に手を当てる。熱い。離すと、やはり手の平に付着した汗が光る。 もう一度目の前の彼に視線を戻すと、愛おしそうに手の平に唇を押し当てていた。伏せられた長い睫毛が透き通った肌に影を落とし、ふっと艶めかしい吐息が漏れる。濡れ羽色の黒髪が風に揺れて、真っ黒な瞳を隠してしまった。時折覗く赤い舌はやけに色っぽく、白い肌に滴る水滴を残さず舐め取ろうとちろちろと動く。 その光景があまりにも淫靡で美しく、俺はついつい見惚れて手元のクリームパンを落としそうになる。が、ここでやっと思い出した。 こいつ、舐めやがった。俺の汗がついた手を、堂々と目の前で…。 「そうだよっ!柊凛おまっ…何、何してんの!?汚いだろ!?」 「んー?」 右手を降ろして、ゆっくりと顔が上げられる。彼の目元を隠していた髪がさらっと流れ、黒い瞳が再び俺を映した。 「んー?じゃなくて!汚いだろ!?俺の汗がついてんのに、だから早く洗って来いって…」 「ついてるからこそ、だよ。もったいないと思ってね」 もったい、ない…?俺はやはりのぼせているのだろうか。彼の言っている意味がよく理解できなかったが、目の前の柊凛はとても楽しそうに目を細めた。 普段から割とよく笑うやつだが、この笑顔はいつもと違ってどこか妖しく、真っ黒な瞳には底知れない深さが見えた気がした。
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