prologue

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君は、太陽を見たことがあるだろうか。 こう聞くと、ほとんどの人が「ある」と答えることだろう。 そしてきっと思い浮かべるのは、真昼間に空に浮かぶあの大きな光の玉。 昼と夜を連れてきて、世界の全てを照らしては時に全てに影を落とす。 雲に隠れたり地球の裏に隠れたりしながら、高い高い空の上で今もずっと変わらず輝き続けている。 誰がいくら手を伸ばそうとも、決して手の届かない場所で。 馬鹿げている話だと思われるかもしれないが、俺は子どもの頃に、太陽を地上で見たことがある。 晴天に浮かぶ自由な雲みたいに真っ白い肌と、今にも雨が降り出しそうな曇り空の灰色の髪と、深い夜に光を灯すようなサンライズイエローの瞳。 この世の全ての輝きを一ヶ所に集めたら、きっとこんな風に輝くのだろう。 子どもながらに確か、そう思ったんだ。 しかし俺が今覚えているのはそれだけだった。 あの日以来、俺はあの太陽が忘れられない。夢だったのかもしれない、と幾度も疑った。周りの言う通り俺の空想の中の話なのでは、とも。 あれが何だったのか、どこで出会ったのか、俺はそれと一体何をしていたのか...。 ただひとつはっきりしているのは、俺は太陽に出会ったということだけ。その事実だけが漠然と暗闇の中に浮かんで消えない。 月日が流れるごとにその事に関する記憶は段々薄れていき、具体的な出来事はもうほとんど思い出せない。しかし他の何を忘れてもあの太陽の輝きだけは消えることなく、いつしかそれは記憶の彼方に眩く光る俺の宝物となっていた。
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