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掃除機の音だとばかり思っていたうねりの音が、冷蔵庫だとわかってセツ子は畳にへばりついた身体を起こす。両手を畳にふんばって起きるついでに転がったビールの空き缶を三缶、身体の重みをかけて押しつぶしてからゴミ箱に放りこんだ。
いつもの癖でいやでも目が寛太を探してしまう。
陽が差し込まぬ台所は薄暗くてセツ子の心までひんやりと冷気が滲み込んでくる。思い切りぶつけたい言葉は夢の中でも言わずじまいに、ただ、まどろっこしさだけを残して消えてしまった。
やはり寛太はいない、と思った瞬間、悲しみが夕暮れの青い霞に混じり込んで、セツ子は掻きむしられるような孤独にひしがれるのだった。
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