夏の残り

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夏の残り

 寛太がリビングで掃除機をかけている。セツコは六畳の畳に寝転がったまま大声で話しかけていた。 「ねぇ、ちょっと掃除機止めてくれなぁい! 声、聞こえないじゃないのよ」  セツ子の怒鳴る声がうねりに巻き込まれぐぁんぐぁんと吸われて行く。 「話、途中じゃないの、ずるいわよ寛太、逃げないでよね」  昼間のビールがけだるい重みを伴ってのしかかってくる。やっと持ち上げた頭をリビングの方にひねったら、陽に焼けた萌葱色の畳の縁が目線の端を逃げた気がした。寛太がいるはずのリビングに姿は見えず、ただ揺れる寛太の影がステレオの上の白い壁から天井にまで伸びている。黒く浮いた色のまわりにぼおっと大きな薄墨色の大きな影が重なり揺れて、入り込んだ陽はもう夕方に近いことを示していた。
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