夏の残り

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「そこらにいるメダカは黒だけど、これは緋メダカといって黒より十円高い分、随分かわいいんだよね。メダカだって馬鹿にできない、何千円もするみたいな高級なやつもあるんだぜ」 「ふぅん、詳しいのね」 「ガキの頃メダカに凝ってさ、俺、友達いなかったし、近くにホームセンターがあって、そこにメダカが売ってて毎日見に行ってたら、店員のお兄ちゃんと親しくなって教えてくれたんだ」  いがぐり坊主の寛太が水槽に顔をつけている姿を思い浮かべた。どことなく幼顔が残る寛太の顔は子どもの頃とさほど変わってない気がして、ふっと笑いがこみあげた。 「だけどメダカは値段じゃないんだよな。それよか、安いものほど素朴で、そこがかわいいんだ、そう思わないか?」  一センチにも満たない小さな身体にいっちょまえに胸びれも尾びれもついていて、目ばかりが大きい。 「まだ、子どもよね」 「うん、産まれて二週間だって。かわいいだろ?」  水槽に放したメダカを二人で頭を突き合わせるようにして見た。なるほど緋メダカは、そこらにいる黒いメダカとは異なり薄淡いオレンジ色をしており、身体に二つの黒い目玉だけが大きく見開いて、目にも止まらぬ早さで水を切り、はたと水中で静止しては、様子を窺っているのか小さなひれがゼンマイ仕掛けのように動いている。 「ほんと、かわいい」 「かわいがってやれよな」  今、思えば他人まかせの言葉を、そのときは何の意味もなく聞き流していた。
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