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「よーし、じゃあこれで一学期は終了だ」
終業式を終えた後のホームルーム、教室に担任の声が響く。
「明日から夏休みだが、くれぐれも羽目を外しすぎないように気を付けるんだぞ」
待ちに待った夏休みに生徒たちが色めき立つ。ざわめく教室を担任がなだめつつ、注意事項などの説明を淡々と済ませて。
「浮かれてこのあとの帰りに怪我とかすんなよー」
最後にそう言ってホームルームが終了した。担任が教室を後にするのと同時に、再び喧騒に満ちる教室内。家路につく者、部活へ向かう者、友達とお喋りをする者。
それぞれに明日からの期待に胸を膨らませているのが、何となく感じ取れる。
「やっと夏休みか」
俺もまた高揚感に包まれながら、明日からの夏休みに思いを馳せ帰り支度を整えていた。そこへ仲のいい男子が話し掛けてくる。
「比良元、明日の祭り行くんだろ?」
「あぁ、行くけど」
「じゃ、待ち合わせしようぜ」
「おう」
そんなやり取りをしていると、他にも何人かが寄ってきて話に加わって。
「遅れるなよー」
「そりゃ俺のセリフだ」
一緒に行く面子が決めた後、軽口を叩きつつ時間の確認を済ませて。俺は教室を後にした。これから起きる予感に少し期待をしながら。
「いよいよ明日だよ!」
玄関に着くと予想通り、そこには尾久が待ち構えていた。やれやれといった反応を見せながら、靴を履き替え外に出る。尾久も並んでついてきた。
「明日が最後の勝負だよ!」
「だから結局なんなんだよ、それ?」
「へへー、それは明日のお楽しみー」
「お楽しみなのか?」
興奮した様子の尾久に、俺もついつい楽しくなりながら歩を進める。同時に、そんな楽しい時間に微かに切なさが芽生えて。
「なあ、明日の勝負が終わったら……」
「……ん?」
言った俺の顔を尾久が覗き込んでくる。慌てて顔を逸らしながら、言葉を続けた。
「ああ、いや、明日の勝負が終わったらそれで勝負はおしまいなのか?」
気になっていた疑問。しかし尾久はどこかばつが悪そうな態度になって。
「えー、どうかなー? あはは!」
はぐらかすように笑って、それ以上は答えなかった。
「ま、とりあえず明日は広場で待ち合わせだからね!」
「おう、わかった」
それからは他愛もない会話をして、解散になるのだった。
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