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 発端は約一ヶ月前。中間試験も済み一段落した、五月も終わりのこと。 「へー、そうなんだ」 「ああ。それでな……」  入学から二ヶ月。少し親しくなったクラスメイトと談笑しながら帰路についていた時だった。 「比良元くん!」  他愛もない会話をしながら校門に差し掛かった辺りで、俺を不意に呼び止める声。一瞬戸惑いつつ声の方へと振り返ると、息を切らせてうなだれる女の子の姿。 「……なに?」  唐突な出来事に困惑しながらも返事をする。呼吸を荒げながら上げた顔には見覚えがあった。同じクラスの尾久 香都未。あまり話した記憶もなく、こんな風に呼び止められる心当たりも無い。 「あの……はぁ、はぁ」  こちらの問いに答えようとして、しかし出てきたのは荒い吐息。よほど急いで追いかけてきたのか、完全に息を切らしている様子。そんなにまでする用事ってなんだろうか? 「……大丈夫?」  心当たりはないままに心配して声を掛ける。しばらく彼女は息を整えようやく落ち着くと、まっすぐ背を伸ばしてこちらに向き直る。 「ありがと、もう大丈夫」  笑ってそう言いながら、少し恥ずかしそうな様子でいそいそと制服を直して。 「で、なに?」  改めて尋ねると、コホンと軽い咳払いの仕草を間に挟んでから。 「あー、えっと……」  そこで言葉に詰まり、目を泳がせ始めた。……なんなんだ、いったい? その不可解な態度に混乱しつつも、ひとまず相手の言葉を待ちながら彼女を眺める。待っている間にも挙動不審さは増し、視線は宙を泳ぎまくり手は制服の裾やスカートを忙しなく弄るという有様。 「おー、これはもしかして?」 「なんだよ比良元、青春かよ」  そうこうしている内に飛んでくる、一緒にいた連中からのお決まりの冷やかし。そんな妙な空気にげんなりしていると。 「しっ、七月!」  唐突に尾久が口を開いた。 「……へ?」  が、言葉の意味がわからず、俺の口から出たのは間の抜けた声。冷やかしてきてた連中も同様に呆けた様子でまばたきを二度三度。 「いい!? 七月になったら決着つけるから!」  ビシッと音でも鳴りそうな勢いでこちらに人指し指を突き付けて、謎の宣言を放つ尾久。怒ってるのか不機嫌なのか、なんとも渋い表情でこちらを睨みながら。 「……はい???」  おかしなテンションの彼女と真逆に、俺は間の抜けた顔で間の抜けた声を漏らす。決着? なんの?
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