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「待ってたよ、比良元くん!」  翌日、まだまだ明るい空の下。祭り会場の広場で俺を出迎えたのは、すっかり聞き慣れた尾久の高らかな声だった。 「元気だな、お前は今日も……」  浴衣姿でビシッとこちらに指を突き付けるいつものポーズを取る尾久に、相変わらずの猛暑でバテ気味の俺は呆れた声を漏らす。 「なになに、お前ら付き合ってんの?」 「香都未ー、どういうことー?」  状況がわからない俺の連れと尾久の連れが、好き勝手に囃し立てるがそれはとりあえず気にせず。 「んで、どうするんだ?」 「五本勝負だよ!」  不敵な笑みを浮かべ問う俺に、やはり不敵な笑みで答える彼女。しかし重要なのはこの次だ。 「それで勝ったら何があるんだ?」 「ふっふっふっ、怖じ気付くなよ。勝った方はなんと! 負けた方に何でも一つだけ言うことを聞かせることが出来ちゃう! どうだ!?」  予想通りの答え。しかもやたらと尾久は自信満々である。となれば、次は。 「オッケー、わかった。で、肝心の勝負内容は?」  と尋ねた瞬間、尾久がピシッと音でも鳴らしそうな感じで固まった。やっぱり、勝負の内容について考えるのを忘れていたようだ。 「……えっと」  ぎこちない笑みを顔に貼り付けたまま、頬にたらりと汗を流して目が泳ぐ尾久。しかし俺は焦らず、言葉を切り出した。 「じゃあ、露店を巡ってそこで勝負ってのはどうだ!?」 「へっ? あー、うん。じゃあ、それで……」  間を置かずに出した提案が意外だったのか、尾久はちょっと驚いたような顔をしながら了承する。 「なら早速、行くぞ!」 「お? お、おー」  落ち着く暇を与えずに促すと、商店街の通りへ向けて足を踏み出した。呆気に取られる尾久はこちらの勢いに飲まれ、戸惑いながらもついて来る。 「……なんなんだ、あれ?」 「……さあ?」  そんな二人のやり取りについてこれないクラスメイトたちの、困惑した言葉が背中に飛んでくるのを気にしないフリをしながら。
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