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「比良元くん!」  七月一日。新しい月の始まりと共に梅雨が明け、やって来たのは異常なほどの猛暑。そして…… 「ついに七月!」  およそ一ヶ月前から続く面倒で騒がしい日々の、さらなる波乱の幕開けだった。 「今月いよいよ、決着をつけるんだからね!!」  放課後の下駄箱の前。下校の為に靴を履きかけた俺に飛んできたのは、すっかりお馴染みになった声。そちらに顔を向ければ、ビシッと音でも鳴りそうな威勢の良さで指を俺に向かって突き付けて佇む女の子。 「はぁ……」 「ちょっ、なにそのため息は!?」  女の子の勢いとは正反対に、またかといった風にため息を漏らした俺にすかさずツッコミが飛ぶ。伸ばした腕をブンブンと振りながら。 「いや、だってさぁ……このくそ暑いのに、それ以上に暑苦しいそのテンションだろ……? ため息の一つも吐きたくなるっての……」 「なんだよその反応はー!!」  俺の率直な感想に不満の声を張り上げ、不機嫌そうに足を踏み鳴らす彼女。呆れてはいるものの、こういう反応は正直ちょっと面白い。 「おーのーれーっ!」  まるでマンガのようなセリフで唸る。こんな反応を見せられれば、ついついからかいたくのが人情ってものだ。 「っていうかさぁ、この猛暑でそんなテンションだと熱中症になるぞ?」 「うぐぐぐっ」  おどけた仕草をしつつからかい調子で言うと、女の子の顔はみるみる怒りに染まっていき。……あ、しまった。キレた。 「うるさいうるさい!!」  ヤバいと思った瞬間、強烈な怒声が飛んできた。 「ちょっ、短気すぎるだろ……」 「余計なお世話! とにかく!!」  彼女の迫力に気圧されビビりながらもツッコむ俺に、女の子は鬼の形相で怒鳴り声を上げ。今度は衝撃波でも放ちそうな勢いで再びこちらに指を突き付ける。 「今月で君との因縁に終止符を打ってやるんだからね!」 「だから何なんだよ、その因縁って!?」 「すぐにわかるよ! 夏休み最初の夏祭りで!!」 「……まだ結構先だな」 「うっさい! いい、比良元くん! 夏祭りで決着だからね!!」  何気ないこちらの呟きにも、面白いようにプンスカ怒りつつ言い放つ彼女。そして彼女ーー尾久 香都未は怒りの勢いそのままにきびすを返し、走り去っていった。  例年よりも早い猛暑と、例年よりも騒がしくなる予感を引き連れて。俺のーー比良元 始の夏がやって来た。
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