隣室の音

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 庭に置いてある白い椅子に腰掛けながら、出された麦茶を飲み、カーテンの閉じた4号室を見る。 (ん?いま何か動いた?)気のせいだろうか?一瞬カーテンの端が揺れた気がしたのは。 「そういや、小坂さん。お仕事の方はいかがですか?」 「前と似たような仕事ですけど・・・」 (あれ?僕は言ったっけ?)秋野さんが、笑いながら麦茶を飲み干す。  まだ5月の半ばなのに、もうじんわりと汗をかき、シオカラトンボが飛んでいた。 「ハーチ!お前さんにゃ、トンボは無理だよ」秋野さんがそう言うと、トンボを狙っていたハチがこちらを見て、軽く鳴いた。 「ハチは、不思議な猫ですね」  あれは、ここに越してきた当日。  秋野さんと話してる時にハチの身体を鬱々とした気もちで撫ぜていた。 『お前は、ほんとウジウジしてんな』 「ん?秋野さん、いまなんか言いましたか?」少し離れた所で、花に何かを埋めていた秋野さんに問いかけた。 「あ?わしか?わしは、何も言っとらんぞ・・・」  少し日差しが眩しいのか、目を細めてこちらを見る。 「あ、いえ。なんか誰かの声が聞こえたような気がして・・・」 『お前はほんと意気地なし。してもいない事を何故していないと言わん?』 「???」声は聞こえるが、姿は見えない。 (幻聴?) 『それは、不当解雇というのだろう?俺にはよくわからんが・・・』 (まさか?)と膝に乗せているハチを見るが、ハチは眠いのか大きなアクビをしていた。 「さぁ、ハチ?腹でも減っただろ?」  ニャァンッ・・・ハチは、僕の膝から飛び降りて秋野さんの元に駆け寄り、座る。 『まっ、その内凄いことあるからさ。気対して待っとけよ!相棒』  ニャァッ・・・  一瞬、ハチと目があい・・・ 「っ?!」 (今のってウインク?え?猫でもウインクするのか?)  椅子に座りながら、秋野さんとハチを見送り、立ち上がり4号室を見上げるも、カードは閉まったまま微動だにしなかった。  それから数日したある晩。  この日は、新しい職場での歓迎会で僕は少しお酒に酔っていた。  カチャッ・・・  時間も時間でなるべく音を立てないように部屋に入る。 「ふぅっ。酔ったな・・・」少しふらつきながらも布団を敷き、横になる。 (やっぱり・・・)  
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