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窓の外では雷が鳴り響いている。
ときどき室内を照らす稲光に何かの影が映った。
「だれ?」
個室に男の声が響く。
「見えるの?」
彼しかいないはずなのに彼以外の誰かが返事をする。
「見えるもなにもキミはそこにいるんでしょ?」
室内では意味の分からない会話が続いて消えた。
「ん!」
一瞬目を焼くほどの強い光が室内に入ってきた。何者かが映し出される。
その姿は人間で言うと20代くらいの女性に見える。真っ直ぐに伸びた黒髪は背中の中程まであり、縛られることなく自然に下ろされている。身につけている衣服も彼女の髪と同じ真っ黒なワンピースだ。
けれど彼女は「人間」ではなかった。
その証拠の彼女の背には一対の、カラスのような、けれど足首まで届くほどの大きな翼が生えている。これは作り物なんかじゃない。彼女が息を吸うと少しだけ翼のボリュームが増し、息を吐くとしゅうっと萎む。まるで翼で呼吸をしているようだ。
「きれい…」
男は思わず口にする。その視線は彼女の瞳を真っ直ぐにとらえていた。
「怖くないの?」
「怖くないよ」
男は怖じ気づくことなくそう言った。
「で、キミはだれ?」
男は自分が使っているベットの上で身を起こしたまま彼女に問いかける。
「『死神』」
「死神…なら、僕はもうすぐ死ぬの?」
彼女は非情にも頷定する。
彼女も死神が見える人間に会ったことがない。今まで何百人もの人間の命を刈り、死者の国へ送ってきたのにもかかわらず、今まで一度も無かった。
だから人間との話し方が分からない。
言えば傷つくかもしれない言葉があることも、彼女は知らなかった。
「そっかぁ 僕、死ぬんだ…結局二十歳まで生きられなかったね」
死神が迎えに来たというのに、男は気にした様子も無くヘラヘラと笑っていた。
「…普通、生き物はその生にすがろうとするもの…?」
死神と名乗った女は男のその様子を見て不思議そうに首を傾げる。
「今までキミが奪ってきた命はそうだったの?」
今まで刈ってきた命は、死を受け入れた者もいたけれど、多くは「まだ生きたい」という気持ちを抱えたまま死者の国へ旅立っていった。
「多くはそうだった」
彼女は今まで刈ってきた命について思い返す。体は動くことはないのに、その魂はやり残したことがあるとその生にすがっていた。
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