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「ねっお願い 一日外に連れて行ってくれたら大人しく死ぬから」
男は胸の前で手を合わせ、首を傾ける。
「…分かった…」
死神は今まで守ってきたルールを破り、一日だけ男を病院の外へ連れ出すことにする。
「やった~明日先生に言って許可とっておくから、そうだな~10時くらいなら行けると思うな!」
男はとても嬉しそうに話す。男の笑みに死神はこの選択をしてよかったという思いが、ぽっと胸の中に灯る。
「そういえば、キミの名前ってなんていうの?」
男はふと思いついたように問いかける。
「名前?」
「そうそう、誰がついてきてくれるのか聞かれたときに困るじゃん?ちなみに僕は日高清明」
彼は彼女が名乗りやすいよう先に名乗ってくれる。
「名前は…ない」
「えっ、名前ないの!?」
死神の世界で名前は必要ない。だから、個人個人の名前はなかった。
晴明は困ったような表情をしている。
「ん…どうしようか…名前がないと困るよね…」
今まで使わなかったが、どうやら人間の世界では名前がないと都合が悪いことが多くあるようだ。
「名前がないとお前が生きる意味がないのか?」
自分に名前がないと目の前の男の望みが叶わない。ということは生きる意味がないのではないだろうか。そんな結論に至った。
「ん…そこまで直結はしないけど…ねぇ」
死神が首を傾げれば晴明は何かを思いついたのか彼女を見上げる。
「キミの名前、僕がつけてもいい?」
名前がないならつけてあげればいい。晴明はそう考えた。
「名前?」
「そう、本名じゃなくて仮でもいいからつけていい?」
死神には名前の大切さがわからなかった。だから簡単に決めてしまう。
「いいよ」
「やったー!なら…苗字は同じでいいかな?」
死神は頷く。
「日高…『めい』はどう?明るいって書いて明。僕の『清明』から一文字とったんだけど…」
どうかと言われても良いのか悪いのかわからない。けれど晴明がイイと思ってつけてくれたのだ。多分いい名前なのだろう。
死神はコクンと頷いた。
「じゃあ、今から『日高明』ちゃんね!」
晴明はまたキラキラした笑顔を向けてくる。まるで日の光を浴びているようで目を細める。
「めいちゃん、めいちゃん、そこにある紙とペンをとってもらっていい?」
晴明が指さしたものをとって渡すと、紙に何かを書き始めた。
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