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――ひゅうぅぅぅ
「でもね、十蔵さん。
そんなカンペキ風流な朝のはずなのに、風の音だけがなんか残念な気がするのよ、私。そう思わない?」
「奇遇でございますね。僕も葵様と全く同じことを、いま考えておりました。
どこか、おかしな気がいたします」
「でしょ、でしょっ! 十蔵さんもそう思う?
残念っていうか、なんか変だよね?」
――ひゅうぅ、ぅぅぅっ
「こんな、あとを引くような風の音、聞いたことないよねっ?」
十蔵さんの着物の袖を掴み、さらに同意を求めた。
「はい、葵様のおっしゃる通りです。
それに、何やら聞き慣れない珍妙な音が風の音に混じっているような……」
すると、ゆるりと周囲を見回していた十蔵さんの瞳が、私に戻ってきた。
私より少しだけ高い位置にあるその鳶色の瞳が、私を見て柔らかく笑んでから、また不審げに細められていく。
「そうそう。そうなのよ!
なんか、気持ちがざわざわするような、そんな感じもしない?」
その反応に勢いづいた私は、掴んでた十蔵さんの着物の袖をさらに激しく左右にびろびろと動かし、まくしたてた。
『気持ちが、ざわざわする』
これ、今の違和感をバッチリ言い当ててる気がするの。
だって、雪が降った後なのに、なにげに空気が生暖かくなってきてるんだもの。
そんなの、おかしいでしょ?
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