子曰く

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湊兄ちゃんから、柏木先輩が分厚い本を受け取っている姿を見るのは初めてではない。 けれど、何度目かの光景に、改めて気づいたことがある。 「今さらですけど、先輩、現代の作家も詠むんですね」 古典、特に古文を開いていると、先輩自ら話しかけてくれることが多い。古文が好きなのかと思っていたけれど、そう言うわけでもないらしい。 タイトルを覗き見る。 「『頼朝サンバ』って…!?」 口に出して、しまったと思ったが遅かった。 ぎらららーん、ぐぐぐいっ。 柏木先輩がスイッチを、オンにした。 「これはな、十六夜(いざよい)(かおる)先生の『鎌倉夜明け前三部作』の第三部だ。 第一部『清盛タンゴ』の発売と共に、空前絶後の話題となったのだから、店頭で平積みされているのを見たことくらいはあるだろう。 『清盛タンゴ』の上巻を読む中でもうすでに、これまで輝かしい賞を戴いてきた十六夜先生の、新しき代表作となることは明白であったのだ。 その『清盛タンゴ』を読み終わったあとの至福と、この作品が完結してしまったという哀しみ…。何度も読み返しても作中人物に新たな発見を見いだせてしまうという、奥深い人物造形! そして、その約半年後に発売された『巴と義仲のギャロップ』。 発売予告された時点で、このストーリーが三部作であることも同時に公開され、十六夜ファンは歓喜に包まれたーー」
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