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だから、八風神社の巫女のことも、凡そ話の通じない常識外れだと思っている。
朱雀は、ふ、と意識を引き戻し、眼下の神社に目を落とす。
社殿の明かりは疾うに落ち、取り囲む木々と相俟ってぽかりと穴が開いたように闇が居座っていた。
社殿の奥の自宅にも、明かりが灯っているのは一階の居間と思しき部屋のみで、闇にぽつりと浮かぶそれは頼りなく見える。
朱雀がいるのは、ちょうど神社を見下ろせる位置にある高台の公園で、神社の反対側の展望台からは広がる夜景を一望できた。
そこは密かに名所になっていて、カップルがちらほらといるが、神社側は街灯が一つあるだけで薄暗く、あまり人が寄り付かない。
人目につかないのをいいことにいかがわしいことに利用しようとする輩もいるわけだが、今は朱雀が人払いの術を施しているため誰も入ってくる気配はない。
巡らされた手すりに腰を預け、悠然と神社を見下ろす朱雀の目には、居間の人影まで確認できた。
レースのカーテン越しに動く影は三つ。紗月とその両親だろう。大した動きがあるわけでもなく、少々退屈な時間を持て余していると、一人が部屋から出て行き、ほどなくして二階の角部屋に明かりが点いた。
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