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 神社の周辺には街灯もなく、鳥居の手前に置かれた狛犬と並ぶ石燈籠の明かりだけが辺りを照らしている。加えて今夜は新月で、星明りだけ。黒っぽい服装の朱雀は男から見れば闇から抜け出てきたように思えたかもしれない。 「こんな夜中までお仕事ですか。大変ですね」  笑顔を崩さず、柔らかい口調で言いながら、男に近づいていく。  ゴムのソールのエンジニアブーツはほとんど足音が立たない。男の数歩前で脚を止めた。 「さっきの方、どこかで見たことがあるんですけど、誰でしたっけ?」 「誰でもいいだろ。失せろ」  威嚇するように顔を顰めて、男が吐き捨てる。  朱雀は軽く眉を上げて肩を竦めた。 「退屈そうだから、話し相手になろうと思ったのに」 「余計な――――― ……」  お世話だ、と続くはずだった言葉が途切れ、男が小さな目を瞠る。  指の先からタバコが落ちて足元を転がった。  闇の中に、赤い双眸が炯々(けいけい)と光る。  その目を見た途端、男は動けなくなった。  朱雀は男と目を合わせたまま訊ねる。 「この車に乗っていたのは誰だ」  男は瞬きすらせずに見返して口を開いた。 「……辻崎官房長官」  抑揚のない平坦な声が腹話術の人形のように動く口から漏れる。 「官房長官がこんなところに何の用だ?」 「『隠し巫女』に会いに来た」  茫洋とした口調で答える男に、朱雀は眉を寄せた。 「何のために」 「知らない」     
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