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その答えに朱雀が目を眇めると、男は怯えたようにびくりと身体を揺らす。
「本当に知らないんだな」
「知らない」
力を強めてみるが、本当に知らされていないようだ。
一介の運転手にそこまで話すはずもないか、と諦め、朱雀は踵を返す。
一つ瞬けば双眸は黒に戻り、朱雀の姿は闇に溶けてゆく。
吹き過ぎた風が煙草の火を一瞬煽り、ジジ、と紙が焦げた。
まるでそれを聞きつけたように、男の目が焦点を結び、大きく息を吸い込んで辺りを見回す。
「あれ、今誰かいたか……?」
ぽつりと独り言ち、周囲を包む闇に身を震わせると、足元に落ちた煙草を「勿体ねえ」と慌てて拾い上げた。
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