6/23

172人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
 その答えに朱雀が目を眇めると、男は怯えたようにびくりと身体を揺らす。 「本当に知らないんだな」 「知らない」  力を強めてみるが、本当に知らされていないようだ。  一介の運転手にそこまで話すはずもないか、と諦め、朱雀は踵を返す。  一つ瞬けば双眸は黒に戻り、朱雀の姿は闇に溶けてゆく。  吹き過ぎた風が煙草の火を一瞬煽り、ジジ、と紙が焦げた。  まるでそれを聞きつけたように、男の目が焦点を結び、大きく息を吸い込んで辺りを見回す。 「あれ、今誰かいたか……?」  ぽつりと独り言ち、周囲を包む闇に身を震わせると、足元に落ちた煙草を「勿体ねえ」と慌てて拾い上げた。
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!

172人が本棚に入れています
本棚に追加