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桑原邸の屋根に腰を下ろし、美羽は持ってきたバスケットの中からスチール製のポットと紙コップを二つ取り出した。
一つにポットの中身を注ぎ、隣に「はい」と差し出す。
緑金の瞳を天に向けていた灰色の猫は、差し出された紙コップをじっと見つめ、次の瞬間には人の姿へ変わった。
湯気の立つそれを受け取り、すん、と匂いを確かめてから、慎重に口を付ける。一口嚥下して、目を瞠った。
「美味い。これは何だ」
「コーンポタージュ。今日はちょっと冷えるから、少しとろみのあるものの方が温まるでしょ」
答えながら自分の紙コップにも注ぎ、一口啜る。
「はー、温まる」
緩んだ声で呟く美羽の口から漏れた息が白く凍って解けた。
「静かだねぇ。今日も動きはなさそうかな」
湯気を散らしながらスープを啜り、美羽が白い息を吐き出して言う。並んでカップを傾けながら、陸王も頷いた。
「そうだな。疾うに日付も跨いだし、随分と静かだ」
どこか長閑な雰囲気でスープを啜る二人に呆れたような声がかかる。
「呑気だな」
首を巡らせて背後を振り仰いだ美羽が、やはり呑気な声で「朱雀」とその名を呼んだ。
「今日が巫女と会える日だったらしい。官房長官が来た」
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