8/23
172人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
「へえ」  美羽が目を瞠り、感嘆の声を漏らす。 「こっちは静かだな」  ぐるりと周囲を見渡して言う朱雀に、美羽が頷いた。 「やっぱりその隠し巫女が犯人って説が濃厚みたいね」 「一応、確証が持てるまでは警戒しておいた方がいいだろう。陸王、交代だ」  言いながら踵を返そうとする朱雀を、美羽が呼び止める。 「あ、待って朱雀。凪子サンとこに行くなら、これ持って行って」  差し出されたバスケットを眉を寄せて見つめ「これを?」と胡乱げに問う。美羽は至極当然のように頷いた。渋々受け取った朱雀は、とん、と軽く屋根を蹴って闇に消える。  それを見送って、陸王は残ったスープを飲み干すと、麒麟の姿となり、ふわりと空の高みへと駆ける。美羽はそれに手を振り、「行ってらっしゃーい」と声を投げた。  桑原邸からほど近い空き地に、凪子はいた。  元々は老舗の和菓子屋があったのだが、半年ほど前に店主が亡くなり、継ぐ者もいなかったらしく、取り壊されて以来空き地のままとなっている。  敷地の真ん中に立った凪子は、両手で印を結び、目を閉じていた。その足元には光の方陣。  ぶつぶつと口の中で呪を唱える凪子の髪が、風もないのに揺れて波打つ。     
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!