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 ぱち、と目を開き、印を解くと、二の腕を擦って足踏みをした。 「さ、むっ!」  昼間は良い天気で暖かったので、つい厚手のジャケットだけを引っ掛けて出てきたのだが、日が落ちるとどんどん冷え込み、ジャケットの前を掻き合わせて自分を抱きしめる。 「彼氏とかいたら、優しく温めてくれるのかしら」  足踏みしながら独り言ち、余計に虚しくなって溜息を吐きながら項垂れた。 「言ってて虚しくならないのか」 「なったわよ。だからこうして落ち込んでるんでしょ」  道路側から掛けられた声に、勢いよく顔を上げて噛みつく。 「その上着を貸してやろうっていう優しさはないの」 「俺が寒い」  しれっと答える朱雀に、ぎりぎりと音を立てて奥歯を噛みしめていると、小さく笑った鬼は手にした不似合いなバスケットを掲げて見せた。 「美羽の差し入れ、いらないのか」 「いる!」  すぐに飛びついてバスケットを受け取り、土地を囲む柵に腰を預けてスープのポットを取り出す。 「さっすが美羽ちゃん。いただきまーす」  湯気を立てる紙コップを手に、ご満悦になった凪子は、一口啜って「生き返るー」と間延びした声を漏らした。隣に並んで、朱雀もスープに口を付け、ほう、と白い息を吐き出す。 「隠し巫女のところに、辻崎官房長官が来たぞ」     
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