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緑金の瞳がじっと鳥居の奥を見つめる。
時折風が吹き抜ける以外は、全てのものが息を潜めているかのように静まり返っていた。
陸王は木の陰に座り、神社の様子を窺う。
鳥居の前に横付けした車の中では、運転手が退屈そうに雑誌を眺めていた。
朱雀と交代して一時間が過ぎようとしている。
鳥居の向こうは神域。
中を窺おうとすれば、視覚に頼るしかない。
神気に守られた空間は、外側からの霊力の干渉を遮断するからだ。
身動ぎすらせずにひたすらじっと見つめていた陸王の耳が、ひく、と動き、僅かに顎を上げる。
車の向こう、鳥居の辺りで音がした。
石畳を踏む二人分の靴音。
すぐにその主が姿を現し、黒スーツの男が後部座席のドアを開けた。官房長官が乗り込むのを待ってドアを閉めると、辺りに視線を走らせてから助手席に乗る。車は低く唸るようなエンジン音を響かせてから、ゆっくりと滑り出した。
目の端でそれを見送り、陸王はその場から動かずに、仄かな明かりの漏れる社殿の奥に目を凝らす。
音もなく禰宜が出てきて、母屋へと消えて行った。
しばらくして、母屋の明かりが全て消える。
刹那。
社殿の向こうから何かが飛び出した。
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