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 まるで他人事の軽い調子で言って、面白そうに朱雀を見た。 「……なんだか、俺ばっかり働いてないか?」  半眼で見返す朱雀の背を、「まあまあ」と軽く叩き、凪子はにっこりと獣を示す。 「だって、あの子、朱雀を御指名なんだもの。仕方ないじゃない」  楽しげな凪子の声に僅かに眉を寄せながら、朱雀は獣の前に立った。 「――――― 指名料は高くつくぞ」  爛々と光る黄色い双眸を向ける獣に言い放ち、一つ目を瞬かせる。  朱雀の双眸が、闇の色から赤へと変わった。  それを合図にしたように、獣が鋭い爪で地を蹴る。  大きく顎を開いて獣は朱雀に飛び掛かった。  ―――― おかしい。  爪で、牙で、人の姿をした鬼を追いながら、獣は考えていた。  主人に頼んで、前よりも体を小さくしてもらった。  だから、スピードは上がっているはず。絶え間なく送られてくる主人の霊力にも乱れはない。  なのになぜ、この鬼は皮一枚のところで躱してしまうのか。  遊ばれていると感じて苛立ち、癇癪を起こしそうになるのを、女の囁きが諌めた。 『―――― ダメよ。落ち着いて。ちゃんと鬼の先を読みなさい』  先を読む。  そう言われてもどうすればいいのか分からず、獣は一旦距離を取る。     
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