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 逡巡する間に鬼の方から距離を詰められた。身構えた瞬間に、足元から火柱が吹き上がる。  高密度の霊力が炎の形を取って飲み込もうとするのを、大きく後方へ跳んで躱すが、炎はそれを追ってきた。 「カッ!」  気合と共に口から霊力を吐き、炎を相殺しようとする。しかし、炎はぼう、と音を立てていくつかに分裂し、そのまま炎の球となって獣を襲った。  その合間を縫って、鬼が獣の懐に踏み込み、赤い霊力を纏わせた拳や蹴りを繰り出してくる。  一歩退いた途端の猛攻に、防戦一方になってしまった獣は、攻めあぐねて苛立ち、咆哮と共に霊力を放出する。  膨れ上がったそれは獣の身体を無数の針となって覆った。針の鎧を纏い、ヤマアラシの様相を呈した獣は、ぐっ、と深く上体を沈めると、弾丸のように鬼に向かって行く。  身の裡に溜め込んだものを吐き出し、軽くなった体に、獣は有頂天になった。
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