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 淡い黄色の針に守られた獣が、スピードを増して反撃に転じ、朱雀は後ろへ跳ぶと同時に目の前に壁状の結界を張る。 「―――― いつまで霊力が保つかしらね」  我関せずの態で腕を組み観戦していた凪子が、ぽつりと呟いた。陸王は隣に立って彼女の横顔をチラリと見やり、次いで獣へと目を移す。  咆哮が大気を震わせた。  霊力の壁で一時的に獣を阻み、朱雀は霊力を練り上げ、左足に集める。  薄赤い霊力に包まれた足先で、結界を砕いて突進してきた獣の鎧を削いだ。  ぱきん、と思いの外軽い音を立てて、鎧の針が一部折れて散る。横合いから迫る爪を避け、獣の肩口の針を折り砕き、打ち振られた尾を潜って横腹の鎧を蹴り落とした。  獣のスピードは段々上がり、その形相も変わり始める。  眉間に刻まれた深い皺と、見開かれた双眸。その縁に、隈取のように浮かび上がる赤いライン。高揚した気配は憤怒とも歓喜とも受け取れた。  最早、鎧を削られていることにも頓着した様子はなく、ひたすらに攻め込んでくる。攻撃の仕方も、最初こそ直線的だったものが、段々とフェイントも混ぜてくるようになり、それがスピードに乗ればなかなか厄介だった。     
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