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 事務所に帰り着いた凪子は、「取り敢えず寝る」と奥の部屋に消える。「おやすみなさい」と見送った美羽は、いつものソファに身体を投げ出して読みかけの文庫本を広げる朱雀に目を向けた。 「コーヒーでも飲む?」  陸王は帰るなり猫の姿になり、大きな欠伸を一つして専用のクッションで丸くなっている。  広げた文庫本の下からちらりと視線を寄越した朱雀は、「あるなら飲む」と答えて目を戻した。  セットしてあったコーヒーを淹れてテーブルに置くと、朱雀は体を起こしてソファに座り直す。湯気の立つカップに口を付けるのを対面で頬杖をついて見るともなしに見ていると、小さく片眉を上げた朱雀に「何だ」と問われた。 「何でもない」と答えようとして思い直し、窺うように口を開く。 「―――― 朱雀はさ、千年生きてきて、どうだった?」  口を付けようとしたカップを止め、朱雀が眉を寄せた。 「漠然とした質問だな。それを訊いて、お前はどんな答えが欲しいんだ」  問いを返され、美羽は言葉に詰まる。 「……分かんない。……この前、廣中幸也に会ったとき、不老不死の話になったの。人間はね、権力を手に入れると今度は不死を欲しがるんだって」     
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