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 廣中の研究室前の明かりは、やはり切れたままだった。  ノックをすると、中からくぐもった返事が届く。  「失礼します」と告げて部屋に入ると、前と同じように何か書き物をしていた廣中が顔を上げて、おや、という顔をした。 「ええと、確か、沢村美羽さん、だっけ。ああ、どうぞ」  立ち上がりながら言う廣中に会釈をした美羽は、勧められた椅子を断り、ドアの前に立ったまま口を開いた。 「お聞きしたいことがあるんです」  廣中は首を傾げる。 「何かな」  きらきらと周囲を漂う埃が妙に眩しく感じ、廣中は目を細めた。  ドアの前は薄暗く、そこにいるはずの美羽の姿が見え辛い。 「以前仰ってた、知り合いの霊媒師ってどなたですか」 「霊媒師?どうしてそんなことを……」  室内を舞う光の粒が大きくなり、廣中の視界を埋め尽くそうとする。 「教えてください。――――― 霊媒師って、誰ですか」  ちらちらと踊る光に視界を占領され、頭もぼんやりとしてきた廣中はゆるりと首を振る。回転の緩くなった脳は、深く考えもせずに口を動かした。 「―――― 僕の幼馴染だ。稲庭(いなば)嘉月(かづき)。八風神社の長女」 「幼馴染?廣中先生、お住まいは神社の近くですか」     
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