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「子供の頃は。中学二年の時に引っ越したけど、それでも行けない距離じゃなかったから……」
「その嘉月さんとは、どうやって会ってるんですか」
半ば遮るように問いが重なる。
「子供の頃に作った秘密の通路があって、合図をすると彼女がそこを開けてくれる」
「その、合図って……?」
まるで強い睡魔に襲われたように、瞼が勝手に閉じようとする。机に片手をつき、頭をゆらゆらと揺らしながら、廣中は答えた。
「社の裏手、縁の下の柱を四回叩く」
言い終わると同時に、ドアの閉まる音が耳を打ち、はっ、と目を開ける。
溢れていた光は消え失せ、ドアの前も難なく見渡せた。
ぱちぱちと目を瞬かせ、狐に摘ままれたような顔で首を撫でる。
「……誰かいたような気がしたけどな」
独り言つその声は、誰もいない部屋にひそりと消えて行った。
「―――― 急かさないでよ」
壁に背を預けて立つ朱雀を睨み上げ、美羽は潜めた声で抗議する。
「幻術と暗示の併用は疲れるし長く保たない。あのまま昔話に突入するかと思ったぞ」
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