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私はシャツの胸元を左手でつまみ、風を送りこむ。汗を冷やしたかったのだけれど、夏の空気にそんな優しさはなく汗で濡れたシャツがペタペタと肌に張り付くだけであった。
私が手に持っているアイスを見ると彼が口を開いた。
「いい物持ってるな。一口くれよ」
「え、嫌だよ。私のアイスが減っちゃうじゃん」
「ケチくさいこと言うなよ。もしかしたらお前がアイスをくれなかったせいで熱中症になっちゃうかも」
「女子からアイスを奪うなんて重罪だぞキミ」
私はアイスを遠ざけながら彼をじっとりと半目で睨めつけた。
「残念。いたいけな男子高校生にかける情はないんだな」
私は彼の右側に座り、アイスをシャクシャクと齧った。
「あなたはここから家まで後どれくらい?」
「大体20分位かな。お前は?」
「私は15分位。私の方が近いね。知っちゃった以上は仕方がない。私よりも家の遠いキミにはアイスを一口食べさせてあげよう」
アイスを左手に持ち替えて腕を上げる。アイスの側面を伝った雫が地面に垂れ落ち、アスファルトにじわりと広がった。よく見てみると私の足元にもいくつか跡が残っている。気づかぬ間に汗が垂れ落ちていたようだ。慌てて頬を再び腕で拭った。
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