一本のアイス

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 「情けをありがとうございますだ。持つべきものは遠い家と優しい友達だな」  「その遠い家のせいで苦労してるんだろうけどね」  彼がアイスに口をつける。角の方から齧って………齧る? 嬉しそうに彼はアイスで頬を膨らませている。これは私の何口分だ? 五口分は食べられたんじゃないのか。軽く殺意を覚える。  「あんたさ、貰っておいてこれは酷くない? 遠慮ってものを知らないの?」  「わ、悪い。俺は普通に食べたつもりなんだよ。謝るからその怖い目で見るのはやめてくれ。そういえばさ、これって間接キスだよな」  「は? そんな風に会話を逸して難を逃れようとしてるわけ? 有り得ないんだけど」  「ごまかされないか」  「当然よ。食べ物の恨みは怖いんだからね」  「今度なんでもアイスを奢るから許してくれ」  両手を顔の前で合わせてペコペコと頭を下げる彼。しっかりと反省の色が見えるので許してあげることにする。それに間接キスもできたし。  「本当になんでもいいの?」  彼は首をコクコクと上下に振り肯定する。赤べこのようで少し可愛いかも。  「じゃあ、サーティワンのトリプル奢ってね」  「高いんだけど」  「なんでもって言ったでしょ。罪を犯したんだから文句言わないの」  彼は渋々と容認した。二人でお店に行って、彼が作ったアイスを奪ってやろうと私は密かに企むのだった。  「それでいつにする」  「今週の日曜日! 迎えに来てね」  日曜日は精一杯のオシャレをしてアイスを食べに行こう。憎き夏がもたらし幸せな時間をしっかり味わおうと心に決めた。  「それじゃ、アイスも食べ終わったし帰ろうか」  私の夏はきっと、甘いアイスの味なのだろう 。
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