発症

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ネットで見つけたコールドスリープの概要はだいたい似たり寄ったりで実現可能な技術ではないことを物語っていた。  「これじゃ、だめだ。」  檜山幸太郎はキーボードに八つ当たりをしながら拳を叩きつけた。 妻の木綿子が現代医療では治療不可能な病に侵されていると告げられたのは先月末のことで、最初は 左手の薬指が曲がらないという些細に思われることであった。朝、相談を受けたとき  「それがどうしたの。」と言ってしまった。  だが良く考えると薬指だけ伸ばして手を結ぶのは非常に難しい、というかまず出来ない。ただ現象から考えてそんなに大それたことではないと思ったが大事を取って病院に行った妻から昼過ぎに携帯に連絡が来て  「精密検査をするから今度家族同伴で来て欲しいって言われたんだけど、来られる日あるかな。なんかすごく心配になってきたよ。」  「大丈夫、医者なんて大げさなもんだから、でも心配だから今週の金曜日には休めるようにするから大丈夫ならそこで予約入れてみて。そのかわり今週は目一杯残業になるけどね。」  「ごめんね、でもそんなにすぐ休めるの?」  「普段休んでないから有給大量にあまってるから大丈夫。今日も少しは早く帰れるように頑張るよ。」  「悪いわね。じゃあ夕飯は家で食べるの。」  妻との会話を切り、なんでもない風を装ったが内心は穏やかではない。再検査で家族同伴とはあまりよくない兆候としか思えなかったから。検査当日までは仕事に打ち込み気を紛らわせようとしたがふとした時に思い出しては気がめいっていた。
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