発症

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しばらくは切っていないと想像できる髪形をしたその医師は検査結果をもとに説明を始めた。  「結論から言いますと奥様の病状はALS: 筋萎縮性側索硬化症といいます。人間の手や足、顔など、自分の思いどおりにからだを動かすときに必要な筋肉を随意筋といい、随意筋を支配する神経を運動ニューロンといいます。」 「ニューロンというのは「神経細胞」のことです。運動ニューロンは、歩いたり、物を持ち上げたり、飲み込んだりするなど、いろいろな動作をするときに、脳の命令を筋肉に伝える役目をしています。」 「この運動ニューロンが侵されると、筋肉を動かそうとする信号が伝わらなくなり、筋肉を動かしにくくなったり、筋肉がやせ細ってきます。ALSはこの運動ニューロンが侵される病気です。」  「すいません、つまりどういうことなんでしょうか。」つい口を挟んでしまう。  「ALSでは運動ニューロンは侵されますが、知覚神経や自律神経は侵されないので、五感(視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚)、記憶、知性を司る神経には原則として障害はみられません。あなたがだれかに皮膚をつねられたとき、痛いと感じ、つねられた手をひっこめるでしょう。痛いと感じるのは「知覚神経」、手をひっこめるのは「運動ニューロン」の働きです。ALSになると痛いという感覚はありますが、手をひっこめることができなくなります。」  「ALSで侵されるのは、随意運動を行う筋肉(随意筋)を支配する運動ニューロンです。随意運動とは、手を上げるなど自分の思いどおりにからだを動かす働きのことです。心臓や消化器も筋肉でできていますが、随意筋ではありません。心臓が動き、胃や腸で食べ物が消化されるのは無意識に自動的に働いており、これを支配しているのが「自律神経」です。ALSでは自律神経は侵されないので、心臓や消化器の働きには影響がありません。」  「しかし呼吸は、自律神経と随意筋である呼吸筋の両方が関係するので、ALSで運動ニューロンが侵されると、呼吸筋が次第に弱くなって呼吸が困難になります。」  「現代では呼吸機がありますので呼吸困難で死に至ることはなくなりましたが呼吸機が故障しただけで死にいたりますので設備の整った病院に入院して頂くことになりますので今のうちにコミュニケーション方法や様々な準備を行いQOL、つまりクオリティーオブライフの向上させる方法を決めていく必要があります。」
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