発症

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土日は二人で話しあうつもりだったが、二人で映画に行き街を歩いた。お互い何も言わなくてもいずれ訪れる日を前に少しでも外に出て目に焼きつけ記憶に留めようとまるでつき合い始めた頃のようにはしゃいで騒いだ。無理に作っているわけではないと思うがこうしていないと心が先に壊れる気がしてならなかった。  夜、独身の頃デートした海辺に行き海を見ていた。  「怖いよ、だんだん自分の身体が動かなくなるなんて。真綿で首を絞められるみたいで。動かないからだに慣れることもないよね。」  「今はまだ治療法が無いけどもしかしたら画期的な方法が見つかるかもしれないじゃないか。」  「そこまでに手遅れになっているかもしれない。10万人のうちの7人がなんで私なんだろう。運悪いにもほどがある。」  「セカンドオピニオンにも相談してみよう。帰ったら検索してみるよ。」  「うん。」  力なく夜の海を見つめる妻を見つめていた。あと何年かしたら声を出して会話することも出来なくなる。今動ける妻の声と姿を目に焼き付けておきたく、中々「帰ろう」とは言えなかった。
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