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校舎の裏側へ回ると、見覚えのある小さな出入り口があった。幸い校舎の裏側は、かつてのままのようだ。昔そうしていたように、低い柵をひょいと乗り越え、僕は数十年ぶりに学校へと足を踏み入れた。
セミの声は遠く、夏の学校は静かで、そしてひんやりとしている。
校舎の隙間を縫って吹く風は、僕を迎えてくれているようだ。
かつてはここで毎日、友人や先生と同じ時間を過ごしていたのだと耽る。そうすると目頭に熱くなるものがあった。歳だろうか。
しかしついぞ、誰もいない学校に入るというのは初めての経験じゃないだろうか。いや、確か過去に一度だけ、そう一度だけあったような気がする。だけど思い出せない。
ぐるりと周囲を見渡す。誰もいない校舎の中には、生徒達の影法師が忙しなく動いていような気がしてくる。
それにしても
「み、水・・・・」
水分を欲してか、頭がふらついた。
確かこっちに自動販売機があったような。ふわふわとした記憶を手がかりに僕は歩きだす。その矢先。
くらっと頭が揺れた。
周囲が一周し、視界が真っ白になった。
太陽に当てられすぎたのだろうか。
ああ、もう駄目だと思った瞬間、再び地面を感じた。不思議な感覚だった。
「まずいまずい」
僕は急いで自動販売機の元へと駆け寄った。
単価が比較的安いスポーツドリンクを購入するとぐびっと呷った。
そのまま中庭のベンチに座り込む。
「ふぅ・・・。助かった」
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