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2.少女と老人と。
連れてこられたのは家屋の一つだった。
「おじーいーちゃん!」
少女は何のためらいもなく、中へと足を踏み入れた。
「おお、ふみ。よくきたね」
余市が少女に続いてその家の中をみると、ちょうど一人の老人が、にこやかな笑顔で少女を迎え入れたところだった。ふみ、というのが少女の名前らしい。
「ちょうど今ばあさんが夕飯の支度をしていたところだよ」
言葉の通り、台所ではこれまた年老いた女性が、なにやら調理にいそしんでおり、火にくべられた釜からは、湯気がもうもうと立ち込めていた。途端、その香りが鼻をつき、余市は朝から何も口にしていないことを思い出した。
次いで、好々爺は、余市の存在に気が付く。
「おや、そちらの人はふみの知り合いかい?」
「うん、いまさっき、あったの。このあたりをみにきたんだって」
老人は何の疑いもなく、人懐こい笑みを浮かべる。
「おやおや、そうなのかい。なにもないところだけれど、ゆっくりみていってくださいね」
「ありがとうございます」
余市は簡単に礼を述べた。
「ところで、ふみ、今日はうちでご飯をたべていくかい?」
老人はふみの方に向き直ると、先ほどにも増して笑顔で尋ねた。
「うーんとね、きょうはおとうさんとおかあさんがかえってくるかもしれないから、わからないの」
「そうかいそうかい、お腹がすいたらいつでもおいで」
ふみの頭を優しく撫でながら、老人は言った。
「いざとなったらおじいさんの分のご飯を抜きにしますから、たくさん食べていいのよ」
背中越しに、老女が言う。
「わしを飢え死にさせるつもりか」
「あらあら、食べたことを忘れるんですから、食べても食べなくても同じじゃないの?」
「そこまで呆けとらんわい!」
そうして二人は声を上げて笑った。
ふみはにこにこと、二人の会話を聞いている。
「そこのあんたも、よかったらまた立ち寄っておくれな。ふみと一緒に夕飯くらいごちそうしますよ」
「ありがとうございます。機会がありましたら、ぜひ」
老人に礼をしていると、少女が余市の服の裾をちょいちょいと引っ張った。
「いこう、おにいちゃん」
ふみは無垢な笑顔でそう言うと、服の裾まであろうかという黒髪を翻して、ちょこちょこと走り出した。
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