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余市はもう一度老人に礼をして、それに続いた。
ふみというこの少女は、この村落のどこの家においても、愛されていた。
屈託なく、遠慮もなく、明るい声と共に家の中に足を踏み入れ、それを歓迎され、時に食事に誘われ、時に菓子をもらい、時に両親について聞かれ、なによりもどこにおいても満面の笑顔に迎えられていた。
余市というよそ者と共にいることを案じられることもあったが、少女を信頼しているのか、それとも少女の人を見る目が確かだと知っているのか、少女が笑顔で余市を紹介した後で、顔を曇らせる者はいなかった。
少女と村落の人々の交流からわかったのは、彼女の両親が村落に不在であることが多いということ。そして、血縁はなくとも、村落に住む老人たちにとっては孫のように、大人たちにとっては娘のように、そう扱われ、受け入れられていることだった。
余市の目から見てもそこは、夕餉の匂いと、人々の優しさに満ち溢れた、好ましい場所だった。
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