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3.少女と、真夜中に、二人で。
その日、結局ふみの両親が家に帰る事はなく、ふみがどうしてもというので、余市はふみの家で眠りについた。
ふみの家は、両親がいない間、村落の人々が持ち回りで清掃その他諸々の面倒をみているらしく、小綺麗に片付いていた。
「おにいちゃん」
そう呼ぶ声が、余市を眠りから引き戻したのは、夜が深まってからだった。
正確な時間はわからないが、朝日は当分その顔を見せそうにない。丑三つ時をやや過ぎた頃だろう、と余市はなんの所以もなく思った。
「どうしたの?」
眠たい目をこすって、少女にそう問いかける。
「てつだってほしいこと、あるの」
なぜだろう。きっとその表情に感情が発露しているわけではない。それでも、ふみ、というこの少女が、いまにも泣き出してしまいそうな瞳をしている気がした。
少女は、返答を待たず、てこてこと外へ歩いていく。
その後を追っていくと、村落のはずれで、ふみは立ち止まった。
そこには、村落にはやや不釣り合いな、大きめの土蔵がそびえたっていた。その土蔵の裏側に、二人は立っている。
「これ」
ふみがなにかを余市に手渡す。
それは、古く赤茶色に錆びたシャベルだった。
「ここ、ほるの、てつだって」
少女は自分の足元を差して、請うように言う。
硝子玉のような瞳は、いまにもこぼれてしまいそうになりながら、余市を見つめていた。
今はなにも言わない方がいいだろう。そう判断して、余市はその場所に円匙の先を入れた。少女も小さなスコップを手にして、作業を共にする。
村落は静かに寝静まって、木々のさざめきや、梟の鳴く声の他には、ほとんどなにも聞こえない。時折、なにかの動物が這いずり回る、がさり、がさり、という音がしたが、今はその動物が何者なのかなど、意に介す余裕はなかった。
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