4.少女と、真実と。

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「あ!おじーちゃん!それと、そんちょうさんも……どうしたの?」  いつものように、少女は、親しい村の人々を出迎えた。  猫のように無邪気な瞳をきらきらと輝かせ、なんとも嬉しそうに、何も知らずに、その扉を開いた。  母は、村に蔓延る病に怯えながらも、娘に不安を悟らせてはならないと、今日もいつもの通りに夕飯の支度をしていた。  父は、そんな妻を支えようと、妻以上に気丈に振る舞い、いつも以上に父であろうとし、いつも以上に日々の仕事を懸命にこなしていた。そうして家に帰っては、妻を、娘を見守っていた。  そんな日の暮れの、ことだった。  その目は、思いつめていた。  その目は、張りつめていた。  その目は、少女の知っている優しい目ではなかった。 「逃げて!」  母が、叫んだ。 「やめてくれ!」  父は、伸びてくる無数の手を押しとどめようとした。 「村を救うためなんだ」  一人が言った。 「俺たちは助かるんだ」  別の一人が言った。  父は、母は、少女は、押し寄せる村人に逆らえず、押さえつけられた。 「なんで」 「だして」 「おねがい」 「おかあさん、おとうさん」  出された食事に手をつけず、少女は座敷牢の中で泣き、嘆き、哭いた。  それでも、彼女は、父に、母に、会えなかった。    病は、治まらなかった。  卜者の対応が間違っていたのか、それとも卜者自体が偽物だったのか、今となっては誰もわからない。それを知る人もいない。  村の人々は一人、また一人と加速度的に勢いを増して、倒れて行った。  その頃には、少女は嘆くこともせず、ただ格子窓から月を、星を、空を眺めていた。 「そうやって、だれもいなくなっちゃったの」  そう、少女は言った。 「君は、くるしかったかい?」  余市は問いかける。少女の瞳をまっすぐに見つめながら。  少女の瞳も、余市をしっかりと捉えていた。 「ううん……」  少女は首を横に振る。 そうして寂しそうに微笑みながら次の言葉を紡ぐ。 「みんなの、やさしいえがお、もういちどみたかったな……」  余市は、ふみの頭を優しく撫でてやった。
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