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5.土地読みの人
気が付くと、少女は影も形もなかった。
ただそこには寂しげな座敷牢があった。
村落の廃れぶりと比べ、あまりにも綺麗に保たれていたはずのその場所は、いつの間にか時間を取り戻したように古びているように見えた。
土蔵を抜け出し、今にも崩れてしまいそうな家々を横目に歩いて、余市はその村落を去った。
ありがとう。
そんな声が聞こえた気がした。
その声が誰のものなのかは判然としない。
「ぼくにできることは驚くほどに少ないよ」
誰に言うでもなく余市がひとりごちる。
「ただ、ぼくが土地の物語を辿ることで、その土地が癒しを得るのなら、ぼくはその記憶を、想いを、汲み取り続けるだけさ」
余市は最後に一度だけ村落の方を振り返ると、ちいさく礼をして、また歩き出した。
ぱきり、ぽきり、かさり、くしゃり。
幾多の足音が連なっていく。
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