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この道が「風のプロムナアド」という名前だということを、私はマンホールで知りました。コツコツと歩いていた私の足音が不意にカツっという音に変わったことがきっかけで、私は何気なく下が気になったのです。すると珍しい四角いマンホールがありました。そこに「風のプロムナアド」と書いてあったのです。
この名前は完全に間違いです。この道は風薫ることもありません。緑陰の代わりは傾いたあばら家です。陰が出来ていたのは日射の加減ではなく、家が道を覆うように傾いていたからでした。まるで家が私に話しかけてきているみたいです。若干サイズが合っていない私の靴がコツコツと鳴るのを、彼女たちはヒソヒソ笑って聞いているのでしょうか。いえ、気のせいではありませんでした。声が聞こえるのです。私はあばら家に耳を傾けます。
それは人間の声ではなく、猫の鳴き声でした。鳴き声の元をたどると、三軒先のあばら家の玄関前で猫さんが倒れていました。猫さんの前足はひどく傷ついていて血が出ています。だけどもあまり応急措置ができそうなものはありません。私は薬学部なのに、カバンには絆創膏と消毒液しか入っていなかったのです。
「ニャァ...。」
しかし猫さんは苦しそうです。
私はどうするか悩みました。それから決心しました。私はブラウスの片袖を千切り、血を拭ってみました。大きな傷だったのでそのまま片袖を傷口に巻いてやり、その上から消毒液をかけました。
「ニャ!」
消毒液がしみたのでしょう。猫さんは飛び上がりました。なんとか歩けるくらいにはなったらしく、猫さんはどこかに消えていきました。代わりに私は片袖を失いました。
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