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あばら家は姿を消し、代わりに小さな神社が20メートルほど先に姿を表しました。この神社も大きく傾いて陰を作っています。また私は話しかけられているような気がしました。私は神社に耳を傾けてみます。今度は人間の泣き声でした。泣き声の元をたどると、境内で女の子が泣いていました。髪の長い長い女の子です。女の子はボロボロの時計をつけていました。12時でした。
「私は可愛くなっちゃダメなの。」
そんなの女の子には酷な言葉です。私は話を聞くことにしました。
「お姉ちゃんがね、お母さんに新しい髪留めを買ってもらっていたの。私も欲しい!って言ったらダメって言われちゃった。だからね、きっと私は可愛くなっちゃダメなの。」
私は心が痛みました。末っ子の私はこの女の子の気持ちがよく分かります。けれども、和人さんと出会うまでおしゃれに無頓着だった私は、髪留めというような気の利いたものを持ち合わせてはいません。
私はどうするか悩みました。それから決心しました。私はブラウスの片袖を千切り、髪を結ってあげました。シュシュにも見えなくはありません。結び方はよく分かりません。結果的に食べさしのスティックパンの袋を輪ゴムでくくるようにして結んでしまいました。これで良かったのでしょうか。
「私綺麗?」
少なくとも猫さんの汚れがついた私なんかよりは綺麗です。
「うん、とっても綺麗になったよ。」
女の子の表情は良くなりました。
「お姉ちゃん大好き!」
女の子はどこかに消えていきました。
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