第一話

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数ヶ月前に、一通りの手続きを終わらした加藤比奈(かとうひな)が叔父である犬上正巳(いぬがみまさみ)の墓参りに来ていた。 ……叔父さん、連絡くれればよかったのに。 そういう事をできない人ってのは知っていたけど、なにか言ってほしかったな……。 比奈の両親は離婚していて、片親であった父は亡くなったいた。 それから父の弟であった犬上が引き取り、親代わりとなっていた。 そして、犬上は48歳で亡くなる。 犬上は、埼玉に本社がある不動産会社に勤めていた。 そこの広島支社の社長をやっていたが、本社の決定で広島から撤退したのと同時に自主退職をする。 それから出家し、寺に通うようになった。 ……叔父さんは、ずっとなにに(おが)んでいたんだろう。 比奈はそう思ったが、今となってはもうわからない。 亡くなったのが発見されたのは自宅で、警察が言うには事件性はなく、中年男性の孤独死という事になった。 犬上の生活は、朝から寺へ行ってずっと拝み、周りの人に挨拶はするが、それ以外は(ほとん)ど口を聞かない。 そんな生活だったと比奈は聞かされた。     
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