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当日と思われる日に彼を見た人たちは、特に変わりなかった、いつもと同じだった、言っていたそうだ。
……寂しくなかったのかなぁ。
でも、そんな人じゃなかったかぁ……。
きっと最後は安らかに逝けたはずだと思いたい……。
比奈はさらに思う。
……叔父さんに対してあたしに後悔があるとしたら、緑川さんの死を伝える事ができなかった事だ。
緑川さんとは、犬上の部下だった緑川薫のことだ。
比奈が、小さい頃から知っている兄のような存在の男。
比奈も以前には、犬上や緑川と同じ不動産会社で働いていた。
仕事で関東に行っていたが(緑川は上司でもある)、会社の経営者が変わり、仕事をやめて実家へ戻って来ていた。
今は広島の片田舎で、不動産会社時代の同僚と三人で定食屋をやっている。
……さて、せっかく中心街の方に来たんだから、買い物でもしようかな。
いや、だいぶ伸びたし、久しぶりに美容院で髪でも切ろう。
比奈は、手につけていたヘアゴムで簡単に髪を結び、スマートフォンで場所を確認する。
そして、BMCのイエロ-モデルのロードバイク(色は元々黒だったそうだが、無理を言って塗り直してもらった)に乗って美容院に向かった。
「ヒメ~ヒメ、ヒメ!! スキスキダイスキ!!」
無表情で鼻歌を歌いながら、もの凄いスピードで街中を走っていく。
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