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 やがて髪結いがやって来て、今日はおっ母さんだけじゃなく、お絹の髪も結い上げてくれる。  これも、今年初めてのことだった。  ちょっと大人っぽくしましょうねと結綿(ゆいわた)にしてくれて、簪も、いつもの子どもじみた花簪ではなく、銀のびらびら簪を選んだ。  井筒屋は小間物問屋だから娘は看板みたいなもので、こうした身を飾る物に関しては、友達の誰よりも贅沢が出来た。  支度の整ったお絹の姿を見てお父っつぁんは、 「ああ、本当によく似合っているよ。おっ母さんの若い頃にそっくりだ」  と、満足そうに頷いた。  おっ母さんは若い頃、小町と呼ばれていたらしい。嬉しくてお絹は、くるくると回って見せた。朱鷺(とき)色の長い振り袖が、ふわりと翻る。  調子に乗って回りすぎ、目が回ってよろめいた。 「本当にもう、しようの無い子ね。そんな風にはしゃいじゃいけませんと言うのに……」  お絹を抱き留めたおっ母さんはなぜだか涙ぐんでいて、大人になれるおまじないよと、唇に紅を差してくれた。  なんだか、ふわふわとした気持ちになった。
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