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だいたい、こんな夜に見合いだなんて、顔を見せる気なんて無いんだろう。余程のおへちゃに違いない。どのみち話はもう決まっていると言うのなら、何もこんな手間を掛ける事は無いんだ。とっとと勝手に結納でも祝言でも、やっちまえば良かろうに。
人ごとみたいにぶうたれながらも、清太郎にも分かっていた。
相手はまだ十三の小娘だという話だから、今日明日とくっつけるというわけにもいかないが、双方それなりの人を集めた中で広めをし、既成事実を作ろうとでも言うのだろう。
ふん、かあいそうに。
あたしの悪い噂が聞こえた頃には、断りもならないことになってるって寸法だ。
「おうい船頭。これじゃあなんにも見えやしないよ。もっと舟を寄せとくれ」
「へい」
「いっそ、ぶつけておしまい」
「……ご冗談を」
生真面目に返してまだ若い船頭は、巧みな竿さばきですうっと舟を寄せていく。
えらいもんだと、日々ふらふらと無為に過ごしている己の身に引き比べて思う。
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