9人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
「あっ!」
不自然な感じでお絹達の屋根船に近づいてきた舟に、その人の姿を認めてお絹は思わず立ち上がり、身を乗り出した。
「いけねえ、お嬢さん!」
舟がぐらりと揺れて、中年の船頭が声を上げた時、お絹の体は既に、ごろんと船端から暗い水面へと投げ出されていた。
「お絹っ!」
「ああっ、お客さん方も立っちゃいけねえ。一つところへ寄らねえでくれ、舟が覆る!」
屋根船の中は大騒ぎで、船頭も、舟の平衡を取り戻すのに必死で、お絹を助けるどころではない。
助けてと、叫ぶ間もなく頭から川へと落ちたお絹は、しこたま水を飲んだ。
もがけばもがくほど、水をたっぷりと吸った振り袖が絡みつき、身動きが取れない。
沈んでいく、沈んでいく――
最初のコメントを投稿しよう!