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     *     *     * 「あっ!」  不自然な感じでお絹達の屋根船に近づいてきた舟に、その人の姿を認めてお絹は思わず立ち上がり、身を乗り出した。 「いけねえ、お嬢さん!」  舟がぐらりと揺れて、中年の船頭が声を上げた時、お絹の体は既に、ごろんと船端から暗い水面へと投げ出されていた。 「お絹っ!」 「ああっ、お客さん方も立っちゃいけねえ。一つところへ寄らねえでくれ、舟が(くつがえ)る!」  屋根船の中は大騒ぎで、船頭も、舟の平衡を取り戻すのに必死で、お絹を助けるどころではない。  助けてと、叫ぶ間もなく頭から川へと落ちたお絹は、しこたま水を飲んだ。  もがけばもがくほど、水をたっぷりと吸った振り袖が絡みつき、身動きが取れない。  沈んでいく、沈んでいく――
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