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「行きませんよ、あたしは」  清太郎は、ぷいとふて腐れて、そっぽを向いた。  突然、見合いだなんて、聞いてない。  しかも、相手はまだ小便臭い小娘だというじゃないか。  本当なら今宵は、これから綾野と約束が出来ていたというのに。  ところが、いつもがみがみと口うるさい親父や番頭のみならず、一家総出――いやいや、分家の叔父さんがたまでがやって来ていて、親戚総出で寄ってたかって禁足を食らわされてしまったのだ。 「いいや、行っても行かなくても、話はもう決まっているんだ。お前のような出来損ないなど、たとえ持参金を積んだって、他に引受先などあるものか。言っておくが、尾花屋には使いをやりました。もう二度とうちの清太郎を店へ上げてくれるなとね」 「なんだって!」 「こんな店にしばしば上がれるほどの小遣いは与えていない。一度不始末があってから、店の金の出入りには十分気を付けているから持ち出せるはずが無い。そちらの花魁のおためにもなりませんよと申し上げたら随分驚いていたそうだ」 「綾野花魁は、あたしにぞっこんなんだ。たとえ身銭を切ってでも――と、言ってくれるのさ」
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