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 思えば今までは、春の陽だまりだったのだと思う。  毎年この日に会えると思えば、それだけで嬉しくて、楽しくて、ほっこりと暖かかった。  だけど、だけど……  会えないと分かった途端に胸を刺すこの痛みは何だろう。  寂しくて、悲しくて――真夏の灼熱の日射しのように、じりじりと胸が焼ける。  折角、もう子どもなんかじゃないってとこ、見せてあげようと思ったのにさ。  お絹は、これまで夏が一番好きだった。  梅雨が明けて、青い空が広がって、お天道様は眩しくて、煩いくらいに蝉が鳴いて……夜になっても人の声がさざめいて、空に大輪の花が咲く。  なんだか、生きてるっていう気がするじゃない?  だけど、だけど、だけど……  こんなに詰まらない夏は、はじめてだ。  花火も、すっかり色褪せて見えた。
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