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何か、きっかけが必要だと思った。
何万文字も頭に書いて、ようやく、ひとつ思いたつ。
「日和さん」
多分、ひなたがいるか見ようと、玄関へと歩き出した日和さんを呼び止める。
「どんな大人になりたいか」
「ん?」
日和さんが振り返る。
「どんな大人になりたいか、ってさっき言ってたじゃないですか」
「うん? そうだね」
心の中でひっそりと持っていた無謀な夢を、勇気を出して喉の奥から引きずり出す。
「僕、映画監督になりたいんです」
「そうなの?」
なんでだろう。日和さんはハッとした顔になった。
「とりあえず大学は親も行けっていうから行くんですけど、本当は映画監督になりたくて」
うなずきながら、日和さんが聞いている。
口の中がカラカラになる。
「それでですね」
「うん?」
言ってしまえ、西山青葉。
「あの、今制作を考えている短編映画に、出てくれませんか。日和さんみたいに白いワンピースの似合う人の物語なんです」
言ってしまった。
日和さんは少し息をつく。
「似ているなあ」
日和さんはそう小さく呟いたあと、
「いいよ、どんなお話?」
と、寂しそうに笑って言うのだった。
その表情の理由も、誰が誰に似ているのかも分からないけど、そんなことはどうでもよかった。
僕はその瞬間から、今はありもしない、白いワンピースの似合う女性の物語の脚本を、大急ぎで書き上げないといけなくなってしまったのだから。
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