第一章(1/6) 一行目:西山青葉

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 7月の第3週目。  町立図書館には高校受験生や大学受験生、それに僕たちみたいに夏期講習を機に受験を意識し始めた高校二年生、あとはおじいちゃんおばあちゃんを中心にそれなりに人が入っていた。  いくつか並んだ8人がけの大きなテーブルの一番窓際の席に、大学三年生の日和(ひより)さんがどうして座っていて何をしているのかはわからない。  何かの分厚い本を開いて、右手にペンを持ってはいるけど手は全然動いておらず、大きな窓から外に見えるちょっとした中庭を、空いている方の手で頬杖(ほおづえ)をついて眺めていた。  白いワンピースと儚げな表情があいまって、まるで一枚の絵画を見ているみたいだった。  無意識に、メガネをかけ直す。  僕はこんな時にビデオカメラを持って来ていなかったことを悔やむ。  いつどこにシャッターチャンスがあるか分からないことくらい、ちゃんと分かっていたはずなのに。  ビデオカメラは今、僕の部屋にある。  せっかく去年の夏、父親の幼馴染のおじさんが営んでいる酒屋で一生懸命バイトして貯めた金で買った高画質のビデオカメラ。  これじゃあ、まさしく宝の持ち腐れだ。
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