第一章(2/6) 曖昧なボーダー:水沢日和

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 その言葉に思うことがあったのか、ひなたちゃんがまた咳払いをする。  ひなたちゃんが何かを言いたい時に出るクセだ。 「あ、あのさ、お姉ちゃん、好きってどんな感じ?」  ひなたちゃんが目をそらしながら聞いてくる。  難しいことを聞くな私の妹……。 「なんだろう、楽しい時間とか嬉しいこととか共有したいってこと……かな?」 「んー……そうかあ……」  なんか()に落ちていない?  なんですかこの状況。恥ずかしいな。   「じゃあ、お姉ちゃんは、阿賀さんのこと、まだ、好き? 楽しい時間とか共有したいって、思っている?」  一瞬。  一瞬だけど、息がつまった。  好き、とか、好きじゃない、とか、そういうこと、もう、あまり考えてなかった。  そういう、問題じゃない。多分。 「もう好きじゃないよ。そんな風には全然思ってない。大人になると、片思いなんかしないの」  すぐに取り繕った笑顔で、なんとか切り抜けた。  切り抜けられた、多分。 「さて、私もシャワー浴びよー、なんか汗かいちゃった」  二人分のグラスを持って立ち上がり、片方のグラスに残っているものをシンクに流して、お風呂場に向かう。 「全然大人なんかじゃないくせになあ……」  リビングのドアを閉める時、どこかからそんな声が聞こえた。
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