第一章(3/6) 雨宿り:吉野夏織

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 部活帰りの電車の中、のんびりと眺めていた窓に一滴、二滴、十滴、百滴。  ギリギリまで膨れ上がった8月の積乱雲はとうとう耐えきれず、見る見るうちに雨粒の大群が鈍行列車を襲い始めた。  うひゃー。  思わず声が出てしまい、慌てて口を閉じて周りを見渡す。  よかった、誰もこっちを見ていない。  みんな感想は同じみたいで、窓の外を見て、あちゃー、みたいな顔をしている。  窓際に立った黒髪ロングの白いワンピースの大人っぽいお姉さんも、綺麗な顔を曇らせていた。  それはそれで絵になる。美人ってずるいな。    そのお姉さんも、私も、傘を持っていない。  中学の時はチャリ通だったから、雨宿り出来る分まだ良い方かも知れない。  一夏町駅(ひとなつちょうえき)に着くまでに通り過ぎてくれるといいのだけれど。
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